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企業は未来のスター（幹部候補）を探し求めている。そして、途方に暮れている。
企業は従業員のクセや生産性について、かつてないほど多くのデータを持つようになった。 だが、どの従業員に大きな仕事を任せれば秀でた業績をあげるかを予測することは、科学というよりむしろ芸術の領域であるままだ。「高い将来性」を持った従業員がいれば、企業にとっては未来のリーダーを確保したようなものだが、その人選が必ずしもいつもうまくいくとは限らないと管理職は言う。
「人は未来の予想となるとひどいものだ」と話すのは、米IT（情報技術）大手デルでグローバル人材部門のディレクターを務めるトム・ラウジ氏だ。
今のところ、アルゴリズムは人間より優れているわけではない。人事管理ソフトウエアを制作するメーカーの中には人の将来性を予測する新たな方法を開発しているところもあるが、まだそこまでは到達していない。フィンランド通信機器大手ノキアや米クレジットカード大手アメリカンエキスプレス（アメックス）、独ITサービス最大手SAPといった企業は従業員の将来性を測る方法を見直している。注目しているのは新しいメトリクス（評価尺度）で、ゲームを用いて粘り強さといった特性を把握したり、従業員の能力を別の尺度で分類したりといった方法を取り入れるものだ。だが、解決策をもたらすような定量的アプローチを開発するまでにはまだ至っていない。
経営者の大半は現在、従業員の中で誰を出世コースに乗せるかの決断を、管理職の判断や人事考課に頼っている。米コンサルティング会社のタレント・ストラテジー・グループが134社を対象に実施した調査によると、管理職が従業員の将来性を適切に見抜いたケースは全体の半数をやや上回るだけだったという。そのことは、米企業全体で推定700億～750億ドル（約8兆6000億～9兆2000億円）もの研修費用が無駄に使われていることを物語っている。
デルで従業員の将来性を評価するのは一部の管理職で、選ばれた従業員はリーダーたちのネットワークに加えられたり、特別な課題を与えられたりする。だが、デルには将来性を判断する全社的な基準がないため、このアプローチ法はいわば「偽の診断」につながる場合もあるとラウジ氏は指摘する。
ラウジ氏は今夏、従業員の学歴や経歴、業務パフォーマンスといったデータを分析するための調査プロジェクトに着手する。目的はデルの幹部にふさわしい人材であることを示す「印」を見つけることだ。
幹部候補生を選ぶ役回りに就いた管理職は自分に似た人材を選ぶ傾向がある。米コンサルティング会社CEBが9500人超の管理職を対象に行った調査で、そのうちの4分の1近くが未来のスターを選ぶ際に「本能的な直感」に頼っていることが分かった。このことは、一部の企業が斬新な発想力を持った人材や、多様性ある人材の発掘に苦労している理由を説明しているかもしれない。
ニューヨーク州のコーネル大学産業・労使関係学部の准教授で、高度人材研究センターで責任者を務めるクリストファー・コリンズ氏の研究によると、将来を期待されていると感じている従業員はそうでない従業員よりも勤続期間が長く、仕事にも力を尽くす傾向がある。
一方、将来性の高いハイポ（ハイポテンシャルの略）コースに乗っていない従業員は不満を募らせるかもしれない。法人向けソフトウエアを手掛けるSAPで北米部門人事部のトップを務めるジュウェル・パーキンソン氏によると、従業員の約8～10％が「ハイポ」で、約70％は「ポポ」とみられていたと話す。ピストオフ（頭にきている）とパストオーバー（賞味期限切れ）の頭文字で「ポポ」というわけだ。その結果、同社はおおっぴらに「ハイポ」を分けるようなシステムを排除した。
飲料大手の米コカ・コーラで今年3月までイノベーションと起業家精神の育成を担当する部門のグローバルディレクターを務めていたキャリー・デービス氏は、同社の出世コースが同じようなタイプの人材であふれていることを把握した。あるとき、イノベーションに関する集まりで何人かにアドバイスしたが、彼らは新しいアイデアを実行することより、おしゃべりを通して「力を張り合う」ことにより多くの時間を費やしていたという。
デービス氏は「神経が逆なでされた」と振り返る。同氏は約13年勤めたコカ・コーラを辞め、コンサルティング会社を起業した。コカ・コーラでは斬新かつ創造的なアイデアを生み出す従業員の能力が「つぶされてしまった」と心配していると言う。
コカ・コーラの広報担当者はコメントを控えた。
人事管理ソフトウエアを制作する企業は独自のソリューション開発に着手している。こうした企業は個人の確定拠出年金（401K）からみた会社への貢献度のほか、昇進や社内の交流の輪といったさまざまな要素に基づくメトリクスを使って構築されたアルゴリズムであれば高い将来性に関する情報を生み出すことが可能だと主張する。
その中の1社、アルティメット・ソフトウエア・グループによると、同社の「アルティプロ・ハイ・パフォーマー・プレディクター」は従業員の業績について、数カ月後に頭角を現す可能性があるかどうかを点数化する。ただ、同社の主任データサイエンティスト、スティーブ・バンウィーレン氏は、未来の業績は将来性と同じではないと話す。同氏によると、将来性とは組織の中で複数の階級を昇進する能力のことだ。
同社は現在、こうした将来性を予想することが可能なモデルを開発中だ。だが、同氏はこうしたモデルでさえ失敗しないとは限らないとした上で、「データには表れない何かが必ずあるものだ」と話す。
By RACHEL FEINTZEIG
By RACHEL FEINTZEIG