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【北京】中国でホテルを経営する呉海さん(46)は2カ月前、李克強首相に宛てた手紙をウェブサイト上に投稿した。同氏はこの中で、民間企業を奴隷に例え、起業家を見捨てられた売春婦の子供になぞらえた。
呉さんに言わせれば、中国は政府の有力者を指す「ビッグブラザー(偉大なる同志)」と、優遇されて慢心する国有企業によって支配された国だ。手紙には「偉大なる同志に左頬を打たれたら、くそ野郎である私たちは右頬も打ってもらうため差し向けることしかできない」と書かれている。この手紙がネット上に拡散したとき、呉さんは会社が閉鎖を強いられると恐れた。
だが意外にも、呉さんは中国政府が取り組む抜本的経済改革のシンボル的存在となった。中国の国営メディアから素晴らしい肖像画が送られてきたほか、今月には最高指導部が執務する北京の中南海に招待され、官僚制度の根本的な見直しに関する議論に加わるよう要請された。それ以来、呉さんは中国のネット界でセレブとなり、さまざまな集会から講演依頼が届くようになった。
呉さんは「最も重要なのは政府の考え方を変えることだ」と指摘する一方、考え方を変えるのは具体的な解決よりも難しいと述べた。
中国が国家支出や政府支配への依存からの脱却を目指す中、政府は起業家を支援する政策を後押ししている。李首相に宛てた呉さんの手紙は、こうしたタイミングでネットに掲載された。
エコノミストらは、中国が向こう数年間の成長を確実にしたければ、民間資本や民間企業の力を強める必要があると指摘する。中国の経済成長率は昨年、6年前の世界金融危機以降で最低の水準に落ち込んだばかりか、今年の成長ペースはさらに鈍化すると予想するエコノミストが多い。
中国では悪名高い「お役所仕事」が起業家精神の育成を阻んでいる。李首相は過去2年間、こうした役人根性をターゲットにし、ますますひどくなると不満を漏らしてきた。同氏は4月、行政政策を「ばかばかしい」と呼んで官僚をこきおろした。李首相は許認可の取得が困難な現状を嘆き、地方政府の役人は申請者に「あなたの母親があなたの母親であること」を証明しろと言っているようなものだと述べた。首相は中央政府の認可制度を一部廃止し、起業に必要な行政認可項目の数を減らすよう担当部局に指示した。
政府関係者は、前進していることを示すデータが現れていると話す。国営新華社通信によると、中国での起業数は2014年に前年比46%ほど増えて365万社になった。
呉さんは、北京や上海を含む全国15都市以上で65軒のホテルを運営する「桔子水晶酒店集団(クリスタル・オレンジ・ホテル・グループ)」を経営している。同氏が首相への手紙を思いついたのは、李首相が地方政府にさらなる権限を付与する方向で議論を進めているとのニュースを見たからだ。呉さんは「事業の大部分で地方政府と関わるし、地方政府が(権限強化に)うまく対処できなかった過去があるため心配だった」とし、「心配だったから声を上げた」と述べた。
ロンドンを拠点に中国コンサルタント業を営むトレイ・マックアーバー氏は、非効率性を根絶するのは困難だと語る。「問題は、現在のシステムで利益を得ている人々からの抵抗が多いことだ」とし、「特に免許や投資認可、事業から徴収される手数料を得ている人々」からの抵抗が強いと指摘した。
中国ではお役所仕事の大部分が地方レベルで発生するが、問題の根源は中央政府のあいまいな指示にある。専門家によると、中央からの指示は地方政府の解釈に委ねられているという。
ホテル事業を立ち上げてから、地方役人に対する呉さんのいら立ちは募ってきた。同氏によると、政府職員が大型連休前にホテルに立ち寄り、マネジャーに「贈り物を歓迎する」とやんわり注意喚起するのは日常茶飯事だという。
「もちろん断ることもできるが、(そうすれば)生きるのが難しくなるのだ」
By ALYSSA ABKOWITZ
By ALYSSA ABKOWITZ